第3章 後編 愛する彼女と死の外科医
彼の名はギルベルト・ル・エドモンテ。
フレバンスに隣接する、アスガルド王国の現国王だ。
表立っては海軍として動いているが、真の素顔は国王でありその事実を知るものはごく僅かである。
「気軽にギルと呼んで貰って構わないよ」
「呼ぶわけねぇだろ」
彼は国王だという事実を隠している。
その理由は自由に生きたいからだという、なんとも単純なものであるが、家臣を説得するのに中々骨が折れたらしい。
彼は国王になる気はなかったのだが、フレバンス王国が滅んだ後前国王が失踪した為、身内であった彼が国王に選ばれたのだ。
「じゃぁ私は勝手にローと呼ばせてもらうよ。お互いやる気のない者同士仲良くしようじゃないか」
「勝手に仲間にするんじゃねぇよ。さっさと用件を言ったらどうだ」
ローは目の前の男のマイペースさに早速疲れ始めていた。
どうもこの男とは相性が悪い。
「別に用事なんてないよ。挨拶だけって言ったじゃないか」
「そうか。じゃぁ終わったからさっさと帰れ」
ローは額に手を当てるとソファーの背もたれに寄り掛かった。
ギルベルトが何を考えているかまったく分からない。
もし本当に挨拶だけならば、さっさと帰って欲しかった。
「そういえばユーリはいないのかな?」
ギルベルトの言葉にローは少し反応した。
そうかやはりこいつの狙いはユーリだったか。
ローは視線を男に戻すと、彼を睨みつけた。
「嫌だなそんな警戒しないでくれよ。君達夫婦の邪魔はしないつもりだから」
ギルベルトはにこやかな笑みを浮かべてそう言うが、まったく信じられなかった。
というか『つもりだから』と言うことは、気が変わればユーリを狙う気満々じゃねぇか。
ローは眉間にシワを寄せると、早々に目の前の男をここから放り出してやろうかと考えていた。