第3章 後編 愛する彼女と死の外科医
次の日の朝になると二人は予定通り山を越えていたのだが、予定通りなのは最初の方だけだった。
頂上に近づくにつれて傾斜が急になった為か、ユーリが50cm進んで60cm程雪で滑り降りるという技を習得した。
暫くローはその様子を見ていたのだが、だんだんユーリが遠くなって行ったので仕方なく背負って行くことにした。
「あのー重いなら降ろして貰ってもいいですよ」
「おまえはおれを誰だと思ってる。多少重くても問題はない」
「なんですと!!今重いと言いましたね!乙女に言ってはいけないキーワードを!」
「おい、耳元で騒ぐな」
途中でそんな会話が繰り広げられていた。
しかし何だかんだで面倒くさくなったのか、最終的にはROOMを使って一気に頂上まで登っていった。
その結果、予定よりも早く頂上についてしまった。
「わぁ、すごい景色だね!」
二人が頂上に着くと、そこはなかなかに素晴らしい景色が待っていた。
ユーリはローから降ろしてもらうと、目の前の景色を見ていた。
そしてフレバンスが見える位置まで移動すると、微かにその姿を確認することができた。
滅んだといわれるフレバンスの姿は、瓦礫の山として残っているようだった。
白く美しかった町も、今では灰色に寂れてしまい見る影もないのだろう。
「さぁ、行こうか」
ユーリは暫くその景色を見ていたのだが、意を決したように振り返るとローの手を引っ張り麓へ降りて行った。
ローは何か言いたげだったが、降り始めてすぐユーリがローを巻き込んで滑っていったのでそれどころじゃなくなった。
取り合えずROOMで回避したのはいいがこのままでは埒が明かないと気づいたので、再び背負って降りることになった。
ROOMで降りて行ってもよかったがこれ以上無駄に体力を消耗したくない。
背後のユーリは何やら嬉しそうだったが、次第にウトウトし始めたのでこのまま落としてやろうかと内心思っていた。
ここまでローを振り回すのも、こき使うのも、彼女しかいないだろう。
それも悪くないと思い始めているローも重症なのだが、取り合えず背後で涎を垂らしながら眠るのは止めろと言いたい。
そしてローがユーリの頬を引っ張って起こすことを繰り返しているうちに、麓が見えてきたのだった。