第3章 後編 愛する彼女と死の外科医
ローがユーリの容態を伝えて数日経った頃、ハートの海賊団に定期的にシュライヤから連絡が入るようになった。
プルプルプル
鳴り響く電伝虫に気づいたシャチは受話器を上げた。
ーーーあぁ、シュライヤだけど、ユーリはどうだ?
ここ最近何度も尋ねられる内容に、シャチは冷や汗を流しながら船長から言われた通りの言葉を口にする。
「あ、あぁそれなんだが、まだ目を覚まさないみたいで……いや、もう体調は安定しているみたいなんだが」
何が悲しくて4億の賞金首と5億の賞金首の間に挟まれなければいけないのか。
数日前ローから電伝虫を押し付けられたときは何事かと思ったが、予想以上に面倒なことに巻き込まれてしまった。
キャプテンもさっさと目を覚ましたことを伝えてやればいいのに、遅く来た青春をこじらせているのか嫉妬と独占欲全開だった。
いや、初恋か?どっちでもいいが勘弁してくれよとシャチは日々嘆いていた。
今後ユーリに近づく男がいようものなら爪の先まで切り刻まれるだろう。もちろん能力なしで。
シュライヤに対しては助けてもらった恩もあるが、数年前の出来事を根に持っているのか特に警戒しているようだった。
因みに数年前の修羅場はローからユーリを助けると聞かされたとき、軽く話していた。
その時の表情はその場の空気を凍り付かせていたが、なんとかクルー達は耐え忍んだ。
しかしシュライヤと言う人物がローの地雷であることを悟るには十分だった。
ユーリに会わせたくない気持ちも分かるが、そんなのが何時までも通用する相手でもないはずだ。
シャチは何とか話を切り上げ受話器を置くと、深いため息を吐いた。
ここ最近の2人は何やらくだらないことを理由に言い争っていることもあるが、基本的には仲が良かった。
もちろん恋人だということもあるが、この数年間で結ばれた絆の深さはクルー達全員が知っている。
だから出来れば何事もなくこのまま結婚でもなんでもして落ち着いてほしいのだが、不穏な空気は何時もどこかに潜んでいる。
そしてそんな心配をしていると見事に的中するもので、3人を巡って起きた修羅場にクルー達の胃に穴が開くのも時間の問題だった。