第3章 後編 愛する彼女と死の外科医
「……なんの用だ」
低く唸るような声が静かな部屋に響いて行った。
ーーーあぁ、やっと繋がった。お前電話くらい取れよ、おかげでこんな時間まで掛ける羽目になったじゃねーか
電話の主、シュライヤはため息を吐くように言葉を発した。
ローがユーリを連れて帰ってから、その後どうなったのか心配だったので偶にこうして連絡をしていたのだ。
しかし繋がったのは最初の一回だけで、その後は全く繋がらなかった。
そうなると、ユーリに何か悪いことが起きたんじゃないかと心配するのも無理はない。
気持ちは分かるが一応今回のことに関わった以上、どうなったか聞く権利はあってもいいはずだと思い、しつこいかもしれないが何回か電話していたのだ。
「こんな時間に掛けてくるとは非常識な奴だな」
ーーー海賊に常識なんて求めんじゃねーよ。そもそもずっと俺は昼間に掛けてたし!……ってそれよりユーリは大丈夫なのか?
どうせ聞かれるだろうと思ったいた内容に、ローは顔を顰めた。
シュライヤのユーリに対する思いは、仲間の域を超えている。
それが分かったのは最近だろうか。
数年前は流石に演技だと思っていたが、何時の間に思いを寄せるようになったのか。
まったく油断も隙もない。
ローがいるので公にアプローチはしてこないし、恐らく2人が恋仲だと言う事を悟っているのか目立った行動はない。
だが、ローはそれでも気にいらない。
ユーリを疑っているわけではないが、あの無防備と阿保さでほいほい食事くらい誘われれば行きそうだ。
別に疚しいことも何もないかもしれないが、その行為はローの怒りを買うには十分である。
「……ユーリなら…」
そしてローは元々用意していた答えを伝えた。
その返事にシュライヤは少し渋っていたが、ローは話は終わったとばかりに一方的に電話を切った。
流石にもう掛けては来ないだろう。
ローはため息を吐くと今度こそ寝るためにユーリの隣に横になった。
そして何時ものようにユーリを抱き込むと、そう時間が経たない内に眠りに入っていった。
ローはユーリとシュライヤが1年ほど一緒にいたことを知らない。
その事が原因で、軽く修羅場を迎えることになるとは、この時は誰も思っていなかった。