第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
そんなユーリの言葉にローは一瞬視線を寄こしたが、再び黙々と診察をしていった。
(な、なんだこの空気!確かに色々ありすぎて会話に困るのも分かるが、気まずい!!)
「えーっと、ローは身体大丈夫?」
ユーリは不穏な空気に耐えきれず適当に話を振ったが、この話題は余計にローの機嫌を悪くさせてしまった。
「おまえが丁寧に傷を移してくれたおかげで、まったくの無傷だ」
「うっ……そんな睨まないでくれ。あれはほら、条件反射だ」
「ほぉ、やっぱり趣味は怪我をすることじゃねぇか」
「違う違う、ローだけだから。ローが傷つくところは見たくないんです」
「……はぁ、それと同じことをおれも思ってるとなぜ分からない」
「……すいません」
ローは傷に障りないと判断すると、ユーリの服を整えて近くのイスにドサッと座った。
その表情は完全に疲れ切っていた。
そして手を額に当てて何かを考えているようだった。
再び訪れた沈黙にユーリはどうしようかと思っていた。
本当はお互いに言いたいこと伝えたいことが山ほどあるのだが、もう何から話せばいいか分からなかった。
夢の中で判明した事実もあり、更に混乱を極めていた。
そしてローも同じことを思っているのか、眉間には深い深いシワが刻まれていった。