第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
「……っ!」
ローの意識が戻ると、再び船内にいた。
ユーリに手を掴まれたと思った瞬間気を失ったのだろうか。
混乱する頭を整理しようと身体を起こすと、ベットの上にユーリの姿がなかった。
ローは一瞬その場に唖然と立ち尽くしたが、慌てて船内から飛び出した。
ユーリが消えたなんて、そんな現実を認めたくなかった。
バンッ!!
ローが外へ続く扉を壊す勢いで開けると、何かが尻もちをついていた。
「……あっぶな、危うく扉と壁にサンドイッチにされるところだった」
目の前には、まるで何事もなかったかのようにユーリがいた。
そしてブツブツ文句を言いながら起き上がると、目の前のローに視線を向け一瞬で顔を青ざめた。
「~~ッ!なんでおまえはそんな身体で外を出歩いてるんだ!!」
「ひぃぃぃ!?これは私のせいでは…」
何か言っているユーリの手を掴むと一瞬で船内に戻った。
どこからどう見ても怒りを露わにしているローに、ユーリは完全にびびっていた。
だが般若のように恐ろしい表情していても、ベットに横たわらせる仕草は優しかった。
そのギャップにユーリは顔がにやけそうになったが、これ以上地雷を踏むのは止めた。
「って、私だって気づいたら外にいたんですよ!流石にこの怪我でローの許可なく出て行ったりしないですよ」
傷が開いてないか診察しているローに、取り合えず理由を話した。
ユーリはあの夢から目を覚ますと、いつの間にか船の外に立っていたのだ。
暫く呆然としていたがここがローの船だと分かると、船内に戻らなければ怒られると無意識に悟った。
まったく夢遊病もいいところである。
そして急いで引き返したところでローが扉を開けたのだ。