第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
「……ごめんなさい。今回ばかりは、だいぶ心配を掛けてしまいました」
ユーリはローの頬に手を当てて優しく撫でた。
月明かりしかない夜の海ではローの表情が見えなかったが、なんとなく彼の思いは伝わってきた。
ユーリもローを抱きしめ返した。
「胸が暖かい。私に、命をもう一度与えてくれてありがとう」
ユーリは自分の胸に手を当てると、ローに感謝をした。
静かに脈打つそれは、もう二度と手に入れることができないと思っていたものだ。
ローがやったとは言われてないが、言われなくても彼以外考えられなかった。
ユーリの感謝を述べる言葉が、静かに辺りに響いて行った。
本当はローも伝えたいこと、話したいこと沢山あったのだが、もう言葉は出てこなかった。
「さぁ、帰ろうか。きっと目を覚ませば、また出会えるよ」
ユーリは笑った。そして名残惜しいが身体を離すと、改めてローと向き合った。
そして何時までも手を離そうとしないローにユーリは苦笑すると、ゆっくり引きよせ口付けた。
静かに交わる2人の姿は、徐々に消えていく。
遥か水平線の向こうにはいつの間にか日が昇ろうしており、少しだけ明るくなりつつあった。
キラキラと輝く海面のように、二人の姿もまたキラキラと光を浴びていた。
そしてユーリがローを安心させる為に笑顔を向けると、二人の姿は完全に消え去ったのだった。