第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
ローはユーリに不老不死の手術をしようと手を伸ばした時、突然ユーリにその手を掴まれた。
そして驚いて固まっていると、意識が闇に飲み込まれていった。
朦朧とする意識の中、ローは洞窟を走っていた。
ツギハギだらけの意識がゆっくりと覚醒していく。
自分の身体のようで違う、そんな不思議な感覚にローは一度瞳を閉じて軽く息を吐いた。
そしてローが目を開くと、何時の間にか船の外に出ていた。
月夜に照らされたポーラータング号は静まり返っており、人の気配はしなかった。
「わぁ、今日は満月だね」
状況が理解できないローの耳に聞こえてきたのは、一番聞きたくて、もう聞けないと思っていたユーリの声だった。
その瞬間、あやふやな意識がはっきりと覚醒した。
ローはいつの間にか繋いでいた手を引き寄せると、ユーリを強く抱きしめた。
「いたたた!折れる折れる!」
ムードもへったくれもないそんな懐かしい空気に、ローは更に力を込めて抱きしめた。
ここは現実か夢か分からないが、ユーリと出会えたならどこでもよかった。
「急にどうしたんですか……って……ロー?」
何とかローの胸に押し付けられた顔を上げると、ポツリと雫が落ちてきた。
ユーリの頬に落ちた雫は、そのまま静かに流れていき、地面に落ちていった。