第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
ユーリの手術を始めて1か月が過ぎた。
ローはユーリの容態が漸く安定してきたことに安堵していたが、未だに彼女が目を覚ます気配はなかった。
「キャプテン、せめて食事はまともに取ってくださいよ。ユーリさんが起きた時、キャプテンが倒れたらびっくりされますよ」
そう言ってくるクルーの数は多かった。
食事を持ってきても、まともに手をつけず置いたままのことが多々あった。
そしてそんな船長を心配しては落ち着かないクルー達に、ローが折れざる得なかった。
遂にはクルー達の食欲も落ち始めている事実にローはため息吐くと、必要最低限の食事と睡眠を取ることを約束したのだ。
それからだろうか、ローが変な夢を見るようになったのは。
真っ白な世界、フレバンスで出会うあの少女もまた、真っ白だった。
色のない世界で見る夢は懐かしさを感じた。
生まれ故郷の夢はずっと昔から見ていなかった。
だいぶ昔に見た夢は、悪夢のものばかりだった。
だから平穏な故郷の夢を見れたのはここにきて初めてであり、ローの印象に残ったのだ。
そういえばあの少女の名前はなんだっただろうか。
ローは次第にやってくる眠気の中、ユーリの手を握りそう思ったのだった。