第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
ユーリは当たり一面ゴミで埋め尽くされた部屋にいた。
暗く寒いその部屋は、ユーリの心を蝕んでいった。
そして空腹に必死に耐えていると、目の前に黒髪の少年が現れた。
暫くキョトンとして辺りを見渡すと、暗い部屋の中ではなく白い街の中にいた。
「誰だおまえ?」
茫然としていつまでも喋らない少女に痺れをきらしたのか、少年は尋ねてきた。
そんな少年に怯えながら少女は名前を口にすると、盛大に腹の音が鳴った。
「…おまえ、腹が減っているのか?」
眉間にしわを寄せる少年に少女は更に身体を縮こませていると、こっちにこいと引っ張られた。
そして連れていかれた先は立派な病院があり、ここで待ってろと門の前に立たされた。
ソワソワと落ち着かない様子でユーリが立っていると、大量のパンと水を少年が持ってきた。
ユーリに差し出されたそれらを受け取っていいのか迷ってると、無理やり少年に押し付けられた。
「おれはパンが嫌いだから、おまえが食べてくれるなら助かる」
ぶっきらぼうに伝える少年の優しさに、ここにきてユーリは初めて笑った。
そんなユーリの笑顔を興味深く少年は見ていたが、次々と消えていくパンに次第に驚きの表情に変わっていった。
余程腹が減っていたのだろう、彼女は夢中で食べていった。
この裕福な街で少女のボロボロの姿は不自然だった。
少年はどこから来たのか少女に尋ねようとしたが、父の呼ぶ声が聞こえて一時その場を離れることにした。
少しここで待ってろと伝えた少年に少女は頷いたが、少年が戻ってきたときには少女の姿はなかった。