第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
「おまえ……まじで大丈夫か?」
最早その言葉しか出てこなかった。
心臓がなくても生きていけるなんて聞いたこともない。しかも信じがたいがワンピースの正体はとんでもないものだった。
更には昔流行った珀鉛病に侵されているとくるもんだから、最早開いた口が塞がらなかった。
因みにローが記憶を失って結婚させられそうなのはどうでもよかったが、それは言わないでおいた。
今この場で彼女の身を優先して無理矢理連れ出したところで、何も解決しないのも分かっている。
彼女は何度でもこの場に戻ってくるだろう。
まったくあんな男のどこがいいんだと、シュライヤは深いため息を吐き出した。
「取り合えずおまえは一度戻れ。俺は非っっっっっ常に不服だが、あいつの心臓を探してきてやる」
「え!?でもそんな危険な…」
「俺は姿を消せる。余程変な能力者がいない限りこのくらい楽勝だ」
シュライヤは時間がないんだろうとユーリを納得させるが彼女はまだ心配そうな表情だった。
おれの心配より自分の心配をしろと、数年前に何度も口にしたことを言いそうになったが止めた。
それを言ったところで、彼女は変わらないのはよく知っていたからだ。
その代わり今回の貸しは多額の利子を付けてローに請求してやると冗談っぽく笑い、彼女を安心させるように言った。
「じゃぁ、おまえも気をつけろよ?無理するんじゃねぇぞ」
シュライヤはその言葉だけ伝えると、夜の闇の中へ消えていった。