第1章 前編 時の彼女と死の外科医
そんなユーリに気づいてるのかいないのか、ローはさっさと靴を脱がして手早く治療を始めた。
「…何から何まですみません。ありがとう…ございます」
シャンブルズでどこで温めたのかタオルを取り出し、ユーリの足に当てながら何か塗り薬を塗って包帯を巻いていった。
最初は動揺で固まっていたユーリだが、だんだんと嬉しくなり顔がにやけきた。
そんなユーリを見て眉間のシワを深くするロー。
だがユーリの笑みは収まらずいつまでもニコニコとしてるので、諦めて気にしないことにした。
その後すぐに治療は終わった。
流石医者なだけあって手慣れている。
そして薬が馴染むまで暫くじっとしてろとローが伝えたところで、ルフィ達が出港することになった。
お互い無言で見つめ合うこと数秒。
ローは瞬間移動を使えと言うのも気が引けたし、ここから船まで地味に距離があるため、ROOMを使うのも迷った。
「治療ありがとうございます。出航ですよね?後は私一人で大丈夫ですので」
ユーリはローに別れを告げたが、ちゃっかり幽霊部員になってついて行く気だった。
そしてローは、ユーリの中にここに残るという選択肢があったことに軽くため息を吐いた。
「SADに関わっていたと知って、俺が逃すと思うのか?いいから来い」
「うわっ!?」
ユーリは急な浮遊感に驚いて声をあげた。
治療イベントに引き続いて、抱っこイベントも発生するとは思っていなかったのだ。
「ちょ、えっ、あれ?」
バランスを整えるため、思わずローのコートを掴もうとしたのだが、そのまま米俵を担ぐような格好になり沈黙した。
(……ですよねー)
ユーリの感じた一瞬の幸せは速攻で崩れ去り、がっくりと肩を落とした。
しかし、まさかルフィの船に乗れるとは思ってなかったのでユーリは気持ちを切り替え喜んだ。
「お、ユーリも一緒に来るのか?」
船に着くや否や、ローはユーリについてルフィ達から質問責めにあった。
ローは面倒だから本人から聞けとばかりに、ユーリを地面に乱暴に置いた。
そしてユーリが、本当に米俵かよと突っ込んだのはまた別の話である。