第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
溯ること少し前、ローはリデルと一緒にいたが上の空だった。
そんな彼を心配していたリデルだが、あまりにもローの反応がないのに苛立ったのか、何時の間にか怒っていた。
そしてローはそんな彼女に少しうんざりすると、適当に理由をつけて暫くの間部屋から離れることにしたのだ。
ぼんやりと考え事をしながら長い廊下を歩いていると、目の前に女が見えた。
こんな時間帯にうろついている者は珍しいが、格好を見ると使用人と分かり特に気にすることもなく素通りしようとした。
やたら彼女から視線を感じたが、ここに来てからずっとそんな感じで見られていたので別にどうでもよかった。
そして何かを話しかけようと必死に口を開こうとする彼女を一切見ることなく、ローは歩みを進めた。
どうせ彼女も、これまで声を掛けてきた女と同じようなことを言いたいのだろう。
ローは勘弁してくれとため息を吐き、やや足を速めて横を通過した。
「……っ」
そして息を呑む彼女の姿が一瞬だけ視界に入った。
「……?」
ガッ
ローは彼女が視界に入ると、無意識に彼女の腕を掴んでいた。
そして薄暗い廊下で初めて彼女と視線を交わした。
雪のように白く美しい彼女を見て、ローはよく分からない激情に支配されていった。
「……おまえ、フレバンス出身か?」
そして少しの沈黙の後、ローは口を開いた。
心に感じていた違和感に気づき、問いかけたのだ。
彼女の白さには身に覚えがあった。
元々の体質とかそんなレベルではない。
医者であるローは、彼女の皮膚が正常のものではないと、すぐに気づいた。