第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
「なんだか最近天気が悪いね」
船を出してから数分後、ふとベポが呟いた。
たしかにユーリが洞窟の外に出たくらいから空色がおかしくなり始めていた。
ここに来るまでの2日間は嵐のような天気に行く手を阻まれていた。
振り続ける雨は決して止むことはなく、風も凄まじかった。
そして極めつけが赤黒く空に広がる厚い雲だった。
まるで世界の終わりが近づいているかのような不気味さは、クルー達を不安にさせた。
ユーリはそんな空を見て後悔しそうになったが、すぐにその考えを打ち消した。
もし世界が滅びることなろうとも、誰かがこの時代を終わらせなければいけないのだ。
それが正しいかなんて分からないが、もう後には引けない。
だから最後まで責任を取らなければいけないんだ。
今は辛うじて海は落ち着いているが、ユーリは握りしめていた手に力を入れた。
(あぁ、何もかも早く終わらせて、体調も回復して、お風呂に入って、暖かい飲み物でも飲んで、休んで、ローと他愛もない話をして過ごしたい…)
ユーリは疲れの取れない頭でぼんやりとそう願った。
それが叶うことのない夢物語でも、奇跡を信じて願わずにはいられなかった。