第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
「空いている部屋はないから、取り合えずここで休んでください。薬と軽い食事を持ってきますので」
そういって案内されたのはローの部屋だった。
ユーリは一瞬この部屋を使っていいものか迷ったが、さっさとシャチがユーリを置いて出て行ってしまったので使わざる得なかった。
ユーリは少し部屋の中を散策すると、以前2人で船に乗ってた時と比べてそれなりに物があるのに気づいた。
といってもシンプルなのには変わりないが、微かに残っている薬品とローの香りにユーリは胸を締め付けられるような気持になった。
そして取り合えず部屋の片隅にある机の前のイスに座ると、ぼんやりと目の前に散乱している資料を見た。
全体的に片付いている部屋だったが、机の上だけはついさっきまで誰かがいたかのように散乱していた。
歴史、悪魔の実の裏取引、トキトキの能力者、珀鉛病
散らばる資料はどれもそんなものばかりだった。
そしてそれらの資料は全てユーリを助けるためのものだと気づき、流れてくる涙を止めることができなかった。
「あぁぁ!なんで横になってないんですか!」
そして突然扉を開けてきたシャチ。
ユーリは涙を拭うと、慌てて彼に向き合った。
彼の手にはお粥のようなものがあり、ユーリはお礼を言って安心させるように笑った。
そんな彼女に一瞬顔をしかめたシャチだが、すぐに目の前の机にお粥と薬を置くと、食べたらちゃんと寝てくださいと釘を刺した。
ユーリは再びお礼を伝えてシャチが出ていくと、少しだけお粥を頂き薬を飲んだ。
(この薬はローが作ったものなのかな)
ユーリは熱でぼんやりする頭でそう考えると、恐る恐るローが使っていたと思われるベットに横になった。
暖かい毛布に包まれると、より近くにローを感じているようでなんだか落ち着かなかった。
しかしなんだかんだで疲れていたユーリは、そう時間が経たないうちに気を失うように眠りに入っていったのだった。