第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
ユーリは何とか身体を火の海からずらし生きながらえていたが、大量の煙を吸い込んで意識が朦朧としていた。
こんな結末、誰が想像できただろうか。
ユーリは唇を噛みしめ意識を手放そうとした時、身体を覆っていた鎖と口に詰め込まれた布が解かれた。
「ちょっと~何この修羅場。あんた達一体どうなってるのよ」
聞こえてきた妖精の言葉にユーリは意識を覚醒させ、辺りを見渡した。
しかしどこにも妖精の姿は見えず、ユーリは起き上がり妖精を探した。
「何してるの、さっさと行きなさいよ。じゃないとまた扉を閉めるわよ」
妖精の言葉にユーリが前方に目を向けると、閉じられていたはずの扉は再び開かれていた。
「あなたもここから出ないと!火が…!」
「私を人間と一緒にしないで欲しいわ。勝手に出ていくからご心配なく」
「でも…!」
「あぁもう!私の心配より自分の心配しなさい!今のあなたはただの弱い人間よ。そんなあなたが彼を取り戻せるの!?」
「そ、それは…」
「あと、あなた心臓がないの忘れないでね。この場を出れば何時までもつか分からないけど、遅かれ早かれ死ぬわ。それはあの女にも言えるし、ワンピースを放棄した彼にも言えるわ」
捲し立てられるように伝えられる言葉にユーリは嫌な汗が流れるのを感じた。
ユーリだけではなくローまで死の危険が迫っている。
もう時間は残されていなかった。
「何から何まで本当にありがとうございます!今度必ずお礼しますので必ず会いに来てください!その時に名前も教えて!」
ユーリは扉に向けて駆け出した。
火の海はすぐそこまで迫っており、ユーリは身を投げるように扉から飛び出した。
身体中ボロボロだったが、彼女は足を止めることなく出口へ向かって走り続けた。
「……そうね、もし生きていたら、夢の中なら会いに行ってあげるわ」
ユーリが扉を出た瞬間、遺跡は火の海に包まれた。
そして崩壊していく遺跡の傍らで、妖精の羽が燃え落ちていく。
その欠片は遺跡の隅に置いてあった、小さな人形の上に落ちていった。