第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
ユーリはローの元へ駆け寄ったが、彼女の仲間に取り押さえられた。
「あなたの記憶も消してやってもいいのだけど、どうせここで死ぬんだからどうでもいいわね」
倒れ込んだローを愛しそうに抱き寄せるリデルは、更にユーリに追い打ちをかけた。
「夢の中で、私に渡した力を覚えているでしょう?」
ユーリは目を見張った。
瞬時に蘇る記憶に身体の震えが止まらなかった。
ユーリが刀と共に望んだ力は、相手の傷を移動させるものだ。
そしてリデルの望んだ力は……
「…お願い、それだけは…」
ユーリの声は震えていた。
ユーリは必死に拘束を解こうとするが、もう能力者ではない彼女は無力だった。
そんなユーリにリデルは笑みを深めると、ホワイトホールでローの記憶を呼び出した。
そしてパズルをするかのようにローの記憶を書き換えていく。
ユーリとの思い出は、全てリデルとの思い出に。
ユーリへの気持ちは、全てリデルへと変換されていった。
彼女が望んだ力は、ブラックホールで呑み込んだものを自由に操る能力だった。
リデルがローを好きになり始めた頃、好きな力を与えられる機会が訪れた。
いまいち信用できないローに、リデルはあることを思いついたのだ。
例え今後離れるようなことがあっても、ローを引き留める方法を。
彼女の歪んだ愛情をローは知るはずもない。