第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
すっかり荒れ果ててしまったこの大地で、二人は睨みあいを続けた。
「そうね、ここは大人しく引き下がったほうが賢明でしょうね。でも……」
私を甘く見ないで欲しいわ
「…っ!?」
リデルの手にはローの心臓が握られていた。
ローは驚き咄嗟に彼女へ攻撃を仕掛けるが間に合わなかった。
「がっ…!」
心臓を握られもがき苦しむローは何とか倒れずに立ち続けると、目の前の女に鋭い視線を向けた。
そんなローにユーリは前に出ようとするが、シャンブルズで離れた場所に移動させられてしまった。
「ロー……!!」
ユーリが次に見た映像は、リデルがローの頭に手を当て能力を発動している瞬間だった。
「貴様…なにをっ」
ローはその場に膝をつき、頭が割れるような頭痛に襲われた。
手で頭を掴み必死にその激痛に耐えるが、酷くなる一方だった。
「あなたが誰を愛していても、あなたが私のもとだという事実は変らないわ」
リデルは本気でローを愛していた。
生きている中で初めて人を愛した彼女は、その最愛の人からの裏切りに狂気の笑みを浮かべた。
「忘れなさい、何もかも。あなたが見ているのは、私だけでいいわ」
リデルの言葉にローは驚き目を見開いた。
彼女の意図が分かった瞬間、ローの目の前にはユーリとの数々の思い出が走馬灯のように過ぎていった。
ーーーやめろっ
ユーリとの思い出が1つ、また1つと色を失って消えていく
ーーーやめてくれ!!
ローは必至でユーリとの記憶をかき集めた。
しかしそれらはまるで、こぼれ落ちていく砂のようにサラサラと消えていった。
もう、愛した人の名前すら思い出せなかった。
彼女の放ったブラックホールは、ローの記憶を根こそぎ奪っていったのだ。