第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
「……どういうことかしら?」
ローとユーリが抱擁していると、黒髪の女性が静かに近づいてきた。
彼女こそ新しいトキトキの能力者であり、名はリデルと言う。
美しい漆黒の髪は腰まで伸びており、深いコバルトブルーの瞳は冷えた視線を2人に向けていた。
ここに来てからローの様子がおかしいと思っていたが、とんだ裏切り行為に腸が煮えくり返っても仕方ない。
静かに怒りの表情を滲ませている彼女の背後には、多数の政府関係者が武器を構えていた。
「あなた、確か会ったことがあるわ。少し前に夢の中で刀を渡してきた人でしょう?二人して騙して嘲笑って、さぞ私は滑稽でしょうね」
確かにユーリは刀を渡していたが、今回のことはついさっき知ったばかりだ。
かといって言い訳しようとは思っていなかった。
もし私が彼女の立場だったら、怒って当然だろう。
ユーリはそっと目を伏せた。
「騙したことは悪かったな。だが、見ての通りおれが愛しているのはこいつだけだ。賢いおまえならこの意味が分かるだろ?」
ローはユーリを離し背後に隠すと、鬼哭を構えた。
リデルはローの強さを知っている。
だからここで無駄な争いをしても何の利益もないことくらい、彼女なら分かってるはずだ。
怒りを抑えれないのは分かるが、この場を大人しく去って欲しい。
それがローの言わんとする言葉だった。