第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
壮大な振動音と共に、辺りが大きく揺れた。
大樹には巨大なひびが入り、大量の枯れ葉が頭上から落ちてくる。
ローの発動させたガンマナイフは、たちまち大樹の内部を破壊し枯れさせたのだ。
「おまえを犠牲にしないと保てない世界なんて、滅べばいい」
大樹に呼応するように草原も茶色く枯れはて、青空はどす黒く曇っていった。
そしてあれだけあった宝の山もドロドロに溶けていく。
一緒にきた者達の動揺する声が辺りに響き渡った。
「死ぬならおれの目の届く範囲にいろ。……まぁ、簡単に死なせねェがな」
そう不敵に笑うローを見て、ユーリの瞳は漸く光を取り戻しつつあった。
これから先どうなるかなんて分からないが、ローは全てを受け入れてユーリを選んでくれた。
例え世界が滅ぶことになろうが、ローが死ぬことになろうが、関係ないと彼は言った。
2年前あれだけ人の気持ちを踏みにじるような行動をしたにも関わらず、彼はもう一度やり直すチャンスをくれたのだ。
もう、彼女に迷いはなかった。
「……ふっ…」
ユーリはローに抱きついた。
抱きつくというより飛びついたと言った方が正しいが、難なく受け止めたローは優しくユーリの背を撫でた。
ローの胸の中で泣きじゃくるユーリをあやすように、何度も撫でていた。
そしてローはユーリが泣いている姿を見るのは初めてかもしれないと思い、腰に回していた手に力を込めた。
随分長い間我慢させていたかと思うと、心が締め付けられた。
「うっ…ひっく…これから、よろしくお願いします…」
漸く聞けたユーリの本心。
号泣しながら話したせいか、言葉全てに濁点がついていた気もするが、ローは安堵のため息を吐いた。
ユーリも最後のその時までローといることを決心してくれた。
もしここで世界が滅ぶとかローも危ないとか言ってきたら、本気で監禁してやろうと思っていた。
だから珍しく賢明な判断をした彼女に、ローの表情も自然と緩んでいった。