第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
ローは何かに呼ばれるように振り返った。
そこにはこちらを見て笑顔を向けるユーリの姿があった。
その笑顔は14年前、最後に見たあの人のものと酷く似ていた。
「……っ」
ローは咄嗟に引き返そうとしたが、無情にも目の前の扉は閉まった。
扉に手を当てるが、まったく開く気配はない。
びくともしない扉に能力を発動させるが、まるで意味をなさなかった。
「彼女は別のルートで帰るんでしょ?私たちも早く行こうよ」
そんなローを不思議そうに見ているシェリーは、ローの腕を引っ張ろうとした。
ローは扉に拳を打ち付けると、先にクルー達と帰ってろとシェリーに伝えた。
シェリーはなにか言いたげにしていたが、ただならぬ気迫を感じたのか慌てたようにその場から去っていった。
ローは一人になると、混乱する頭をなんとか落ち着かせて、状況を整理していった。
本当にユーリは別のルートで帰るのか?そもそも心臓を失った彼女はこれからどうなる?
あいつは……なにを隠している?
湧き上がる疑問に答えなど見つかるわけがなかった。
それでも考えるのを止めれなかった。
もしかしたら彼女の言うことは本当かもしれない。
トキトキの能力者としてまだ何かすることがあるのなら、それを終えて外の世界に出てくるのだろうか。
先代の能力者があの場にいたのは何か関係があるのか。
ローは手を顔に当てて必死に考えを纏めていると、ある違和感に気づいた。
「……っ!まさかっ」
ローは着ていたコートを脱ぐと全身の皮膚を見た。
どこを見ても白い模様の面影はなく、綺麗な肌色を取り戻していた。
珀鉛病の進行は拳まで進んでいたので、顔に手を当てた時気づいてしまったのだ。