第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
ユーリは振り返ると、ローが去っていくのを静かに見ていた。
そして自分の手のひらを見てみると、白く濁っていた。
(これでいいんだ。私は何も後悔はしていない。ローがこれからの人生を幸せに生きてくれれば、それ以上に臨むものはない)
ユーリは白くなった手を頬に宛て擦り寄せた。
ユーリの肩にも背中にも胸当たりにも、残っている傷がある。
ローに治療してもらった傷はないにも等しいが、これらの傷と白い皮膚はローを思い出すには十分だった。
(寂しくない、寂しくない。彼を守るために受けた傷は、私の励みとなる。これから長い時を耐えていかないと)
病で死ぬのが先か、孤独死するのが先か、それとも次の能力者が来るのが先か分からなかった。
しかしここにいる以上なんとなく死ねない気がした。
(さようなら。私の分も、これからの人生楽しんでくれれば……私も報われます)
ユーリは笑った。最後の別れの瞬間は笑顔でいたかった。