第1章 前編 時の彼女と死の外科医
「…何を考えたらそんな百面相ができるんだ」
ふとローの呆れたような声が聞こえ、ユーリは慌てて我にかえった。
「す、すみません、少し己自身と戦ってまして……改めてコートを貸していただきありがとうございました。何かお礼をと思うのですが何がいいでしょうか?」
ユーリは深々と頭を下げてお礼を言うと、ローは何か言いたげだったが、諦めたようにため息を吐いた。
「そんなのはいい。それより聞きたいことがあるからそこへ座れ」
ローはその辺に置いてあった木箱に腰をかけると、ユーリにも近くにある木箱に座るよう指示した。
ユーリは素直に座ったが、改めてローと話してる事実に緊張と興奮からかソワソワと落ち着かなかった。
「まず、なぜあそこにいた?」
そんなユーリの様子を気にするでもなく、ローは鬼哭を肩にかけるとユーリに鋭い視線を送った。
「それは、私も分かりません。目が覚めたらあのカプセルの中に入ってました」
ユーリはここに来るまでの間で、ローからおよそ聞かれそうなことについて考えていたので、あらかじめ用意していた答えを述べた。
「…SADの中で人体実験をしているという情報は聞いたことないが。もしそれが本当ならおまえはSMILEを食べた能力者か何かか?」
「いえ、私はトキトキの実を食べた能力者です。最近食べたばかりなのでどんな能力かあまり知りませんが」