第1章 前編 時の彼女と死の外科医
「随分と未練がましい男だな」
「黙れ!」
シュライヤから吐き出される言葉にローは舌打ちをすると、鬼哭でシュライヤを薙ぎ払った。
壁に打ち付けられたシュライヤに追い打ちをかけるように攻撃の手を止めないロー。
しばらく激しい攻防戦が続く中、周りの客たちは早々に逃げていった。
(ど、どうしよう。まさかここまで悲惨な状態になるとは)
ユーリは2人の様子を青ざめた表情でみていた。
ローが怒るのは予想していたが、まさかここまでとは思わなかったのだ。
こんなことになると分かっていたらシュライヤを巻き込まなかった。
このまま彼が死ぬようなことになれば、それこそ冗談では済まされないだろう。
だんだん押され始めているシュライヤをユーリは泣きそうな表情で見守り、何か打開策はないかと回らない頭で必死に考えた。
「……っ!」
そんなときユーリを安心させるかのように、シュライヤがユーリ向けて笑みを浮かべた。
まるでユーリの考えていたことが、分かってるかのようだった。
しかしそのやり取りは、ローの怒りを更に買うことになった。
「……避けてッ!」
ローが狙いを定めるように構えた鬼哭、その動きには身に覚えがあった。
シュライヤが一瞬見せた隙に放たれたインジェクションショット。
それは迷うことなくシュライヤの心臓を狙っていた。