第1章 前編 時の彼女と死の外科医
「…なんだ?一体何が起きた?」
ヴェルゴは一瞬の間に状況が大きく変わったことに困惑していた。
ヴェルゴからしてみれば瞬きした瞬間に、手元の心臓がなくなり、知らない女が増え、ROOMまで発動してることになるのだ。
驚かない方が無理だろう。
「さァな、おれもよく分からん」
ローは鬼哭を構えるとヴェルゴを見据えた。
心臓さえ戻ればここに長居する必要はないので、さっさとけりをつけることにしたのだ。
その後はローがヴェルゴを挑発しキレさせたが、一振りで真っ二つにして早々に戦いは終わった。
丁度そのタイミングでスモーカーが来て、ヴェルゴが倒れているのを確認し、舌打ちしていた。
しかし死んでくれればどっちでもいいのか、タバコを取り出して何事も無かったように吸い始めていた。
そしてそんなスモーカーにローは近づくと何かを話し始めた。
おそらくトロッコを運ぶのを手伝えとか言ってるのだろう。
ユーリはそんな2人の様子を離れていたところから見ていた。
ローから貸してもらったコートのお陰か、冷えた身体も心も、脳内も少し温まって来た。
少し冷静になったユーリはこれからどうしようかと考えていた。
(そもそもの悪の根源はSADの中にいたことだ。もっと他の場所だったなら違う結末があっただろうに。おのれ憎っくきSAD、こんな工場破壊して正解だ)
途中から考える内容が逸れていったが、ユーリはそう自分に言い聞かせて心が折れないようにするので精一杯だった。
だからローが近づいて来てるのも気づかなかった。
「おい、とりあえず一緒に来てもらうぞ」
「は、はい!」
ユーリはいつの間にか目の前にローがいたので驚き慌てて立ち上がった。
その際、ローの長いコートの裾を踏みそうになりまたもや転けそうになったが、なんとか踏みとどまった。
「向こうに女がいるから、そいつに服を貸してもらえ。話はその後だ」
ローは一瞬眉をひそめたが、それだけ言うとさっさとトロッコの方へ向かって行った。