第2章 精神科医:黒尾鉄朗
黒尾に依頼された封筒を持ち、病棟を後にした羽音。
精神科の外来は、外来棟の一番奥に位置しているが、その中でも最奥にある黒尾の初療室ヘ向かい扉の前に立つと遠慮がちにノックをする。
「どうぞ~」
と中から彼の声がして、そっと扉を開けると診察用の椅子に腰かけた黒尾が笑顔を向けていた。
「これ、持ってきました」
茶封筒を彼に手渡すと「ありがとう」とそれを受け取る黒尾。
「お茶でもどう?」
立ち上がりポットの前に立った彼はマグカップを持ち上げて
「緑茶かアップルティーしかないけど、どっちがいい?」
と尋ねる。
「緑茶で…」
「渋いね」
笑いながらお茶を淹れる黒尾は先ほどのスクラブのままで、何だかいつもより色気がある。
「そんな目で見てると喰っちまうぞ」
冗談交じりに笑いながらマグカップに入れたお茶を手渡してくれる黒尾にそんなことを言われてまた、顔を赤くしてしまった。
「お前、本当に正直者だね」
羽音の座る椅子の隣に自分のいすを並べた黒尾は、お茶を飲む彼女の顔を覗き込んだ。
「なぁ、キスしていい?」
突然の申し出に、口に含んだお茶を吹き出しそうになる羽音。
「ダッ…ダメに決まって…」
断ろうとする唇に黒尾の唇が重なった。
濃赤のスクラブから覗く腕が羽音の頭と身体を抱え込み、彼女もそれを受け入れざるを得なかった。
やっぱりこの人の事が好きかもしれないと…重なった唇の温度を確かめながら彼の事を想う。
「ダメ?」
一度離れた口から問いかけられた。
首を傾げた彼の視線から目を逸らす事ができない。
持っていたマグカップを落としそうになり、それをうまくキャッチした黒尾は横にあった机にカップを置き、再び彼女を抱きしめる。
「俺の癒し…」
頭上で聞こえる声から、小さなため息が漏れた。
黒尾の温かい体温が直に伝わってくるのはスクラブの胸元がいつもより大きく肌をみせているためだろう。
「黒尾先生…」
「んっ?」
「あのっ……私」
羽音が何か言いかけたのを黒尾の口が塞ぎ止めた。
彼女の口から拒絶の言葉を紡がれるのが怖くて、黒尾はそうしたのだ。
言葉を作る事ができなくなるくらいに彼女の口内を犯し始める。