【イケメン戦国】お気に召すまま【修正完了しました】
第5章 allure
北近江の地は何処か仄暗く、安土より冬に近く見える。
雪が降りそうなほど重く沈んだ空の下、家康は今は滅んだ城跡を高台から眺めていた。
秀吉・三成と別れた後、浅井の残党を追ってこの地にたどり着き。
その最期の言葉が、城の周辺に葬って欲しいと言うものだった。
只の雑兵に過ぎなかったが、浅からず因縁のある相手。
加えて、今やここまで力を強めた織田軍に楯突こうとした、その覚悟には敬意を表するべきだと思い当たり。
戦から早何年、既に荒れ果てたこの地に彼らの亡骸を葬り、ついでに、とこの地で命を落とした彼女の弔いに訪れていた。
「お市様、安心召されよ。
信長様は相変わらずで、天下布武へどんどん近付いてる。
秀吉さんも元気だし、俺も…頑張ってる」
病気がちで、身体が弱かったあの頃。
信長様に相撲だったかを挑まれて、思い切り投げ飛ばされて。
泣いてしまった俺を本気で心配してくれて、女達らに信長様を叱りつけていたっけ――
嫁いだ先で夫に殉じて命を落とすなんて、潔い彼女らしい最期だったな、と思い出す。
思えば、あの様に清廉潔白で、強くて。
大輪の花が咲いた様に気高く、美しい女性には出会ったことがない、のだ、けれど。
吹き荒ぶ風に思わず身を竦める。
これでは、流石に安土も寒いだろう。
寒がりな千花は凍えて、文句を垂らしてなど居ないだろうか、なんて…
この頭を占めるのは、全く趣の違う娘の事ばかり。