【イケメン戦国】お気に召すまま【修正完了しました】
第1章 incense
「…一つ、聞いてもいい?」
そして気付かない内に、覗き込まれていた顔に驚いて思わず仰け反る。
家康が近づく程濃くなる匂いに酔って居るのか、夢現を漂うように、ふわふわとした心地の中こくこくと頷く。
「五百年後の世でも、異性に香りを…こうすい、だっけ。贈る事は、あるの」
「え、あ、うん…あるよ、よくあること、だと思う」
「それは、どんな時に、どんな意図で贈るの」
随分と難しい問に、少し考え込む。
何しろ、現代にいた時は贈られた事も、贈ったことも無かった…
家康が立ち上がり、奥から小袋を取ってきて、手渡してくれる。
山吹色の布で作られたその袋が、何処か家康を思わせる――そんな些細なことにもまた、ふわり、と心が沸き立つのを抑えながら。
「えーと…相手に、自分の思う香りをまとって欲しい、とか」
「うん」
「周りの人に、自分の相手だって示すため、とか…!」
「うん」
「その香りを身につけている間、自分の事を考えさせる為、とか…っ」
言っている間に、今回の贈り物を意識してしまう。
何を自惚れて居るんだろう、と恥ずかしくなって俯く。
すると――
なんだ、と家康のいつもより少し低い、しかし楽しげな声が、耳元で響いた。
「いつの世でも、男の考える事なんて変わらないって事だね」