【イケメン戦国】お気に召すまま【修正完了しました】
第1章 incense
その言葉に、弾かれたように立ち上がる。
家康はそんな私の態度も見透かしていたかのように、薄い笑みを浮かべ、こちらを見ていた。
その表情に、また心臓が痛くなるほど、ちりり、と胸が焦がされる。
「あ、あのっ、そろそろ夕餉の支度も出来ている頃だろうし、戻るねっ」
我ながら下手糞な言い訳を残し、部屋を出る。
廊下に出ても、歩く度にふわり、と立ち上る香り。
「千花」
少し進んだ所で後ろから呼び止められ、振り返ると。
柱に寄りかかった家康がこちらを、いつもの様に真っ直ぐと見詰めていた。
まるで心の中まで見透かされるような、澄んだ瞳…逸らすことも出来ず、立ち尽くす。
「また来なよ…ただし今度は、その着物に匂いが移り切る覚悟でね」
どういう意味か、なんて。
いくら疎い私でも分かる、いや、期待してしまう。
思わずわかった、と返すと、家康の顔が少し赤らんだ。
それを隠すように踵を返し、襖が締まる。
そして、私も今度こそ、少し急いで城へと歩き出す。
匂い立つ香りは、まるで彼に抱き締められているようだった。
――困った、これでは、益々好きになってしまう。
そう気付くも、きっと時既に遅く。
最早、私はこの香りの虜になっているのだ。