【イケメン戦国】お気に召すまま【修正完了しました】
第8章 LA ROUE DE LA FORTUNE
そうして、間もなく。
がたん、と戸を外しそうな勢いで音を立て。
開け放たれた向こう、思い描いた通りの顔があり、私は満面の笑みを浮かべた。
「家康っ!」
「千花…っ、あんたその、手っ」
駆け寄ってきた家康が、私の両手をぐっと掴んだ。
悲しげな顔で診られ、苦笑する。
「見た目は派手だけど、もう痛くないよ。
血も止まってるし」
「…そうみたいだね。
すまない、何も持ってきていなくて。
帰ったらちゃんと処置する、」
その言葉を最後まで聞くことなく、ふわり、と抱きつく。
家康は言葉を詰まらせたけど、私の身体を難なく受け止めてくれる。
「家康、ありがと。あの人達を捕まえないでいてくれて」
「…本当は、来てすぐ押し入って、斬りかかってやるつもりだった」
「うん」
「でも、様子を伺ってたらあんたの頑張ってる声が聞こえてきたから…
でも、それでも、不安で仕方なかった」
「…うん」
不安を素直に口にしてくれる事が嬉しくて、思わずにやけてしまう。
それに気付いた家康は、わざとらしくむす、とした表情で私の頬を抓る。
そんな事にすらにやにやが収まらない私を、呆れたように見つめる目は酷く優しい。
「ありがと、家康。
風に乗って、家康の香りがしたの。
…それだけで、何でもできた」
その言葉に思い出したように、家康は袂をまさぐり。
落とした時に少し汚れたらしい、私の匂い袋を返してくれた。
…もう、これがないと落ち着かない。
すぐに自分の袂に入れ直す。
途端に、優しい、けれど胸を締め付けてくる、甘い甘い香り。