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とある喫茶店での一日(10月10日)

第1章 レモネード滴る





ヌッと大きな影が手元を暗くした。作業を中断して顔を上げると、1人の男が目の前の席に座っていた。
ふわふわとした銀髪のその人は、とてもぶっきらぼうな顔をしていた。私が声をかけるよりも先に、男は頭をぽりぽりと掻きながら、メニューどこ、と呟いた。

「いらっしゃいませ、こちらです」
「どーも」

柔らかなクリアケースに入ったメニューを1枚手渡すと、男は目当ての物があるのか、裏と表をぐるりと見ていた。
気を利かせて、何にしますか?と笑顔で尋ねた。すると、ぐるりぐるぐると滑らせていた男の視線が止まる。笑顔のまま待っていると、男はメニューをぺいっとテーブルに放った。クリアケースがぺちょっと間抜けに鳴って貼り付いた。

「ここ、パフェねーの?」

男の外見からは想像のつかない予想外の物を求められて、えっ、とこぼしてしまう。

「申し訳ありません、パフェはございません」
「じゃあ他に甘いもんはねーの?ほら、パンケーキとかさー」

男の口から並べられるのはその他甘い物のオンパレード。
私の店ではランチを売りにしたかったので、生憎、スイーツのメニューは充実させていなかった。唯一のスイーツが手作りのプリン。
プリンならお出しできますよ、と答えると、男がうーんと唸る。

「じゃ、それでプリンアラモード作ってくれよ」
「ごめんなさい、生クリーム以外にはトッピングできるものが無くて…」

えー、とつまらなさそうに男が言う。頰を少し膨らませ、ブーイングするような表情をしている。なんだか我儘な子どもみたいな人だ。



内心、メニュー以外のものを頼まれたり、無いものに文句をつけられることに苛立っていた。
ここで臨機応変に対応できたら理想的なのかもしれない。お客さんの要望に応えることができれば、後々に店の評判が上がるのかもしれない。
しかしそれは理想の話だ。仕入れた材料だけではできない物はなるべく避けたいと思ってしまうのが現実だ。

せっかくのいいお天気で、いい気分で始まった一日の初っ端が、横柄な態度で文句タラタラのお客とはモチベーションが下がってしまう。



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