第2章 口直しのいちご牛乳
好きでこうなったわけじゃない。いや好きなんだけどさ実は。いやいや、だからって好きでこうなったわけじゃ…なんだこれややこしいなオイ。
先月かぶき町に新しく喫茶店ができたのは知っていた。評判が良いとも聞いていた。料理は美味いし、この辺りの奴らはランチといえば最近はその店だと言う。店主1人で切り盛りしているらしいが、忙しくてもいつも笑顔でいるとかなんとか。あの娘は良い子だよとお登勢のババアまで言っていて。ちょっと覗いてみるか、本当に軽い気持ちで昨日行った。そしたら噂の店主があの娘だなんて、知らなかったからね。びっくりしちゃったからね俺。思わず店に入らずにUターンして帰っちゃったからね。
出会いは先週のことだ。
買っておいたいちご牛乳を神楽に勝手に飲まれて、俺のもんに手ェ出すなっつったろ!と言うと、まだ給料貰ってないアル!酢昆布すら買えないアル!冷蔵庫にある物で飢えを凌いで何が悪いネ!と逆ギレされて、あれまだ渡してなかったっけ…?って自分の財布を見りゃ小銭が数枚。さすがにきまりが悪い、しゃーねー今回は許してやる、次はねェからな!と捨て台詞を吐いて、コンビニへ行くことにした。
大層なもんは買えないがいちご牛乳1本なら買える。それさえあればいい。自分を納得させながらコンビニに入ると、棚にはいちご牛乳が1本だけ残っていた。これは運がいいと捉えるべきだろう。ラッキー!俺のいちご牛乳!心で叫びながら早速手に取ろうとした。
するとほぼ同時に、誰かの手も同じ物に向かって伸びてきていた。バッと横を見れば若い女がいちご牛乳と俺を交互に見ていた。
「えっ、あっ…!」
女がまごついた。運なんて良くなかった。そういえば前にもこの店でラス1のジャンプを取り合った。赤マルだったけど。もしかして俺はラス1に運がないのか。
俺が自分の運の悪さを呪っていたら、女が伸ばしていた手を引っ込めた。
「どうぞ」
私は大丈夫なので、と言って控えめに微笑んだ。彼女は会釈をするとレジに向かい、買い物かごの中身を会計してコンビニから出て行った。俺はいちご牛乳に手を伸ばしたまま、視線は彼女に釘付けになったまま、去っていく後ろ姿を見送った。
「いちご牛乳を譲ってくれる奴に悪い奴はいねェ」
「反応に困るエピソードなんですけど…」
「これがその先週のいちご牛乳です」
「まだ飲んでなかったのかよ!」
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