Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第7章 恋慕
その後、ホフマン家の者達と昼食を済ませたエミリ達は、宿へ馬車で移動する。今日はそこで一泊し、明日の朝に出発する予定となっている。
エミリは馬車に揺られながら、行きと同じように外を眺める。煌びやかな衣服を纏った貴族の者達が、優雅に微笑み合って街を歩いていた。
改めて住む世界が違うものだと感じた。
「ね、エミリ!!」
ぼーっとしていると、隣に座っているハンジに声を掛けられる。エミリは意識を引き戻し、『何でしょうか』と隣へ顔を向ける。
目に映ったハンジの顔は、いつも以上に緩んでいてとてつもなく嫌な予感がした。
「ホフマン家の御子息のエーベルさんを見た時、エミリったらすっっっごく嬉しそうな顔してたけど……もしかして彼のこと、好きなの?」
「ぅえっ!?」
図星をつかれ、エミリは色気の全くない間抜けな声を上げる。
頬が熱くて熱くて、仕方が無かった。
まさかハンジに気づかれていたとは思わなかった。しかし、ハンジで気づいたということはだ。エルヴィンとリヴァイにも気づかれているだろう。そして前へ視線を動かす。
リヴァイは相変わらず窓の外に視線があったが、隣に座るエルヴィンはとても穏やかに微笑んでいた。
「……な、何で……」
「そりゃあ、エミリ見てたら気づくよ〜! ね? リヴァイ!」
「俺に話を振るんじゃねぇ」
(やっぱり兵長も気づいてるよね……)
興味が無いのか、全然反応を示さないリヴァイだったが、エルヴィンとハンジが気づいていて彼だけは気づいていないという方が可笑しい。
「ご飯食べてる時も、ずっと彼と楽しそうにお喋りしてたね」
「そ、そんなに私って分かりやすいですか……?」
「ああ、気づかない方がおかしいな」
あっさりと同意され、エミリはガクリと項垂れる。
別に隠す必要は無いが、色んな意味で恥ずかしい。
庶民である自分が貴族に恋をするなど、なんとも滑稽な話だと自嘲したことは何度もあったから。