Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第7章 恋慕
「彼は本当に素晴らしい医者だった……世話になりっぱなしで何もお礼が出来ていなくてね……だからせめて、イェーガー先生とその奥さんが残した君達の力にはなりたいと思って、調査兵団に資金の援助を……と思ったんだ」
マンフレートは呆れたように肩を竦め苦笑を浮かべる。その呆れは自分に向けてのもの。何度も病から救ってくれたグリシャに出来なかった恩返し。それがずっと彼を悩ませていた。
「……私の勝手な都合ですまない。こんなものただの自己満足に過ぎないが……そんなもので良いのであれば、貴方方に協力させて頂きたい」
「マンフレートさん……」
エミリは嬉しかった。
自分の両親のことをこんなにも思ってくれていたことが。
さっき、マンフレートの言葉の中に『君達の力になりたい』とあった。この"君達"はエミリだけでなく、エレンのことも入っていた。
それがまた堪らなく嬉しくて、涙が出そうだった。
「勝手だなんて、とんでもありません。こんなにも心の篭ったものは初めてです。是非、お受けさせて頂きます」
「ありがとう」
穏やかな笑み浮かべ敬礼をするエルヴィンと共に、ハンジとエミリも拳を胸に当てる。リヴァイは腕を組んだまま見ているだけだったが、彼の瞳の鋭さはいつもと比べて柔らかくなっていた。
そんな彼らに、マンフレートは涙を浮かべ同じように敬礼をして見せる。
「ここの連中も変わってやがるな」
「……え、リヴァイ兵長?」
話を進めるエルヴィンとマンフレートの姿を眺めながら、彼に聞こえない程度の声量でボソリと呟くリヴァイにエミリが反応する。
「確かに、貴族との交流でこんなに清々しいものは初めてだよ」
そして、リヴァイの呟きにハンジが同意した。
兵士長であるリヴァイと分隊長であるハンジも、貴族と交流を持ったことは何度もある。
二人とエルヴィンが見てきたこれまでの貴族は、金と酒、富と名声……裕福な暮らししか望んでいないような、何とも愚かな人間ばかりだった。
だから、誰かのために行動するホフマン家は、とても新鮮だった。