Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第7章 恋慕
翌朝、いつもより早く起床したエミリは、荷物を持って兵舎を出た。本部の門には既にエルヴィン達が集まっている。慌てて駆け寄り、荷物を足元に置いて敬礼をした。
「おはようございます! 今日はよろしくお願いします!」
「ああ。こちらこそ、よろしく頼むよ」
そうしている内に、一台の大きな馬車が停車した。
二頭の馬に、車両は一つ一つの部品や車輪に豪華な粧飾が施されている。正に貴族が持つような立派な馬車だ。
「お待たせ致しました。屋敷までの案内を任された者です。これから、本邸へと皆様を案内させて頂きます。どうぞ、中へ」
御者が車両の扉を開け、中へ入るよう促す。
勿論、新兵のエミリは一番最後だ。団長のエルヴィンから順に、リヴァイ、ハンジに続いてエミリも馬車に乗り込む。
ハンジの隣へ腰を下ろすと、御者は全員が席に着いたことを確認し扉を閉めた。
暫くして、ゆっくりと馬車が揺れ動く。
ガタガタと音を鳴らし、行先はホフマン家の屋敷、本邸だ。
馬車に乗ってから、エミリはずっと手元を眺めていた。会話が無く、少し張り詰めた空気に息苦しさを感じた。
チラリと窓の外へ視線を移す。まだ早朝であるため、街は昼のように賑わっていない。
家がずらりと並んでいるだけで、あまり気分転換にはならなかった。
「ね、エミリ!!」
そこへ、元気なハンジの声が沈黙を破った。
静かな空間にいきなり大きな声が車両に響き渡り、エミリはビクリと肩を揺らす。
「あ、はい! 何でしょうか!」
「ハハ、緊張してる?」
「い、いえ……」
いつもと変わらないニコニコ笑顔で話しかけられ、エミリは少し肩の力を抜く。
久し振りにホフマン家の者達に会える。緊張よりも楽しみな感情の方が勝っていたが、今はこの空間の静けさに押し潰されそうだったため、ハンジが声を掛けてくれたことに感謝した。