Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第7章 恋慕
「え、ホフマン家から呼び出された?」
訪問を明日に控え、エミリは念のためにとフィデリオに話をしていた。あまりこういった話は外部に漏らしてはならないが、彼は意外と口が堅い男だ。
そして、直接的な関係は無いが、よくフィデリオにホフマン家のことで話を聞いてもらったことが多い。
「うん。久し振りに会いたいからって、手紙に書かれてたみたい」
「ってことは、三年振りになるのか」
「……うん」
チラリとエミリへ視線を移す。
エミリは自分の足元を眺めたままだが、その頬は少しだけ紅く染まっていた。
「……良かったじゃねーか。久し振りに会えるんだろ」
「うん」
さっきから上の空だ。
そうなる理由を知っているフィデリオは、無理もないか、と心の中で呟く。
きっとエミリの頭の中は、ホフマン家の御子息のことでいっぱいなのだろう。
「明日、朝早くから出掛けるんだろ。もう寝ろ」
「あ、うん。そうだね。話聞いてくれてありがと。おやすみ」
「おう」
頭を撫でてやれば、少し嬉しそうに微笑んで兵舎へ戻って行った。
いつもはフィデリオに対して口も態度も悪い癖に、"そういう事"になると、フィデリオの気がおかしくなるほど素直になる。
(いつもそんくらい可愛げがあればなあ……)
頭を掻きながら、フィデリオも自分の部屋へ向けて足を動かした。
小さい頃、エミリと出会った時、彼女は一人で遊んでいることが多かった。そこにちょっかいを出す様になってから、いつの間にか幼馴染と呼べる程仲が深まっていた。
いつも危なっかしいことばかりで目が離せない、世話の焼ける妹のような存在になっていた。
だからこそ、よく喧嘩するような仲でも……エミリの恋は、いつも陰ながら応援していた。
(……でも、多分今回も……)
無理だろう。
相手は貴族。身分が違い過ぎる上に、エミリは調査兵だ。
「なあ、兄ちゃん……あいつ、ちゃんと報われんのかな……」
夜空に向けて呟いた言葉は、風に掻き消され静かに消えた。