Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第1章 その日
「エミリ、コイツらを頼む……」
ハンネスは、エレンとミカサをエミリに任せ、駐屯兵の仕事に戻って行った。
エミリは、エレンとミカサを連れて避難船へ向かう。それに乗れば、ウォール・ローゼ内にある避難所へ逃げることができるからだ。
「すみません、この子達を……お願いします」
船の前に立っていた駐屯兵に二人を預ける。
エレンとミカサの表情は未だ優れなかった。無理もないだろう。
ふと顔を上げると、こちらに大きく手を振っているアルミンと目が合う。
エレンとミカサの友人であるアルミンとは、エミリも兵士になる前はよく一緒に遊んでいた、もう一人の弟のような存在だ。
(良かった……アルミンは無事だったのね)
少し安堵する。隣には彼の祖父も一緒に乗船していた。暫くは弟達が世話になるだろう。
「君も早く船に」
駐屯兵の兵士に船に乗るよう促される。
しかし、エミリは首を振り、右拳を左胸に当て敬礼をした。
「私は、ウォール・マリア南方面所属の訓練兵、エミリ・イェーガーです! 私に出来ることがあるならば、何なりとお申し付け下さい!!」
「姉さん!?」
姉の突然の発言に、ずっと黙っていたエレンが声を上げる。
さっき母を失ったばかりなのに、また失うかもしれない。ゾワッと全身に鳥肌が立った。
「何でだよ! 今行ったら……」
死ぬかもしれない。
訓練兵になってまだ一年ほどしか経っていない。その上装備もない。そんな状態で何をするというのだろう。
エレンはエミリにしがみつく。
行かないで、と。
「……エレン、私はまだまだ未熟だけど、それでも兵士を目指す者として何もしない訳にはいかないの。今は、私の出来うる限りのことをしたい」
エレンの頭を優しく撫でる。
確かに、下手をすると死ぬだろう。
だけど死ぬつもりはない。
死ぬわけにはいかない。
この子達を残してはいけない。
そう、思うから。