Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第1章 その日
エレンを引き剥がし、船を離れる。
「姉さん!!」
「……ねえ、さん!」
ミサカの声も聞こえる。
エミリは立ち止まり、振り返って笑って見せた。
「事がすんだら、会いに行くから。だから皆は待っていて」
「「!」」
絶対に死なないから、あなた達は生きて待っていて。
エミリの言葉を簡単にすると、そう言っているように思えた。
「イェーガー訓練兵、お前は住民の避難誘導を頼む」
「ハッ!」
そして、エミリは前を向いた。
後ろからエレン達の声が聞こえるが、振り返りはしなかった。
(あの子達が、私の生きる希望)
だから死なない。
そう胸に誓って、走り出した。
「エミリ!!」
「!?」
聞こえるのは、家に駆けつける前に別れたフィデリオの声。
カルラのことですっかり忘れていたが、フィデリオは無事なのか。声のする方へ視線を動かす。そこには確かに、フィデリオの姿があった。
「フィデリオ」
「無事だったか!! ったく、勝手に動きやがって」
「……うん、ごめん」
「?」
そこで違和感を感じた。
エミリの表情がどこか憂いを帯びていた。まさかエレン達が巨人に食われたのかとも思ったが、エミリが来た方向は避難船の方からだ。エレン達を乗船させたことが予想できる。
「エミリ……」
「私は、避難誘導の指示を出された。あんたは、どうするの?」
言葉を遮るエミリにフィデリオは眉を顰めた。おそらく、今のはわざとだろう。つまり、何も聞かないでほしいということだ。
無表情で真っ直ぐと前を見るエミリの横顔が、なぜか儚く見える。
「……俺も行く」
今、エミリを一人にしては危険だと、言いようのない不安が、フィデリオの心を覆った。