Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第7章 恋慕
「あの、エルヴィン団長……何故、その話を私に?」
疑問が拭えない。
勿論、必要なことだからエミリを団長室へ呼び出しこうして話をしているのだろうが、それでも新兵である自分にどうしてそんな大事な話をするのか分からなかった。
「ふむ。確かに、こういった事は君達のような一般兵士に話すようなものではない。しかし、今回は別だ」
「……別、ですか?」
「ああ。送られてきた手紙には、こう書かれていた。『今年、そちらへ入団したエミリ・イェーガーという少女と久し振りに話がしたい。こちらへ訪問する際、是非、連れて来てほしい』と」
エルヴィンは淡々と手紙に書かれていることを読み上げ、エミリに視線を戻した。
手紙の内容を聞いたエミリは驚きと同時に、ある貴族の名が一つ浮かび上がる。
まさかと思い、恐る恐る声に出した。
「……それって、ホフマン家から、ですか?」
エミリの発言に、その場にいた全員が彼女へ注目した。
エルヴィンは最初からエミリがホフマン家だと当てることに気づいていたのか、口元に笑みを残したまま、彼女の目を見て頷いた。
ホフマン家。代々王家に使えてきた官吏の一族だ。貴族としてもかなり高い地位を持っており、上流階級に位置するほどだ。
しかし、だからと言って高飛車なところもなく、気さくな人ばかりで心の優しい者が多いのである。
「……君はホフマン家の者達と深い関わりがあったようだが」
「はい。私が10歳の時、医者である父にホフマン家から診療の依頼が来ました。それが切っ掛けです。私も父の仕事に付き添っていたので、その度、ホフマン家の方々には本当に良くして頂きました」
貴族には、専属の医師がついているが、その殆どが富や名声を欲しがるような輩ばかりだった。彼らの腕は確かだが、ホフマン家はそんな人間を嫌っていた。だから、グリシャに依頼をした。
グリシャは、謎の伝染病を治した名医であり、貴族からの勧誘があってもそれに応じることはなく、カルラと普通の家庭を築く中、多くの地を飛び回り、赤子から老人まで沢山の患者を診ていた。
そんな彼の人柄に好感を持ち、診療は全てグリシャに頼んでいた。
その際、一緒に着いて来ていたエミリもホフマン家の者達から可愛がられていた。