Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第7章 恋慕
「急に呼び出してすまないな、エミリ」
「…………イ、イエ……ダイジョウブ、デス……」
ハンジに引きずられ団長室へ入ったエミリはいま、全力でこの場から逃げたかった。
目の前にいるのは優雅な笑みを浮かべて座っているエルヴィン。その後ろで窓の外を眺めているのはフィデリオの上官であり分隊長のミケ。そして来客用のソファで足を組み紅茶を飲んでいるのは兵士長のリヴァイ。
(……うわぁ、泣きたい)
団長に呼び出された挙句、部屋には幹部組が見事に揃っている。これのどこか何も無いのだろう。
そもそも、こんな状況で何故ハンジは鼻歌を歌うくらいご機嫌なのだ。いや、この人はそういう人だ。
奇行種だから。
(私、ホントに何やらかしたんだろう……)
緊張で心臓の音がうるさい。
まず何をやらかしたのかすら記憶に無いが、団長に呼び出されるとは相当ヤバイやつだ。
「そんなに固くならなくても良い」
「……ハイ……」
「エミリ〜、さっきからすっごい片言だよ? 大丈夫?」
大丈夫だったらこんなに緊張してません、と叫べたらどれほど良かったか。エルヴィン達がいる手前、そんなことは出来ない。
「では、そろそろ本題に入ろう」
その言葉にエミリはビシッと背筋を伸ばす。
何を言われるのだろう。お願いだから何もありませんように。
心の中で何度も繰り返した。
「先日、ある貴族から手紙が届いた」
「……え、貴族?」
思いもよらぬ単語に、エミリは先程の身体の震えが嘘のようにピタリと止まった。
調査兵団にとって貴族はある意味で大きな存在だ。調査兵団に資金や物資の援助に協力してくれる貴族というものはなかなかいないからだ。
ここで貴族という言葉が出たということは、そういう類の話だろう。
しかし、何故新兵のエミリにそんな話をするのだろうか。そういった重要な事柄は、一般兵士にベラベラと話していいものではないのに……