Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第7章 恋慕
翌日。
モブリットに任され、エミリは書類を運ぶのに何度も同じ場所を往復していた。幹部の忙しさが身に染みて分かる。
特にエミリの所属するハンジ班は、分隊長であるハンジが書類を放置していることが忙しさの原因の一つでもあるが……。
最近は書類整理をモブリットの手伝いという形で任される機会が増えてきた。
まだ入団して半年程だが、元々エミリは座学が得意でもあり、薬学についても自ら勉強してきたこともあったため、割とこういうのは得意だったりする。
何よりハンジは仕事部屋から逃げるのが上手いため、ハンジ班には一人でも多く人手がほしいのだ。正に猫の手も借りたい状況である。
「おーい!! エミリーー!!」
次の書類を取りに行こうとした時、後ろからハンジの大きな声が聞こえた。
「ハンジさん!? 今まで何処行ってたんですか!!」
今日も相変わらず執務室から脱走していたハンジにモブリットが悩まされていたというのに、何故こんなにも本人は呑気なのだろう。
モブリットが書類に追われているため、班員のニファやケイジがハンジを探しに行っているところだ。ここにそのハンジ本人がいるということは、どうやら二人は彼女を見つけられなかったようだ。
「執務室に戻って下さい!! モブリットさんが……」
「そんなことよりエミリ!! エルヴィンが呼んでるよ!!」
「そんなことって………………はい?」
モブリットの苦悩を『そんなこと』と流すハンジにツッコミを入れようとしたエミリは、彼女の言葉に一時停止した。
(いま、なんて……? エルヴィン団長が呼んでいる? 私を!?)
予想外の出来事にエミリは口をあんぐりと開けたままハンジを見上げる。
待て。待て待て。
なんで一般兵士……しかもまだまだ新兵の私がエルヴィン団長に?
ま、まさか……私何かやらかした、とか……?
エミリが青ざめていると、彼女の考えを読み取ったハンジが背中をバシバシ叩いて声を上げる。
「大丈夫! エミリの思ってることとは全然違うからさ!!」
「……ハンジさんの大丈夫は信用できません」
「酷いなぁ。最近モブリットに似てきたんじゃない? じゃ、行くよ!!」
そのままハンジは放心状態のエミリの腕を引き、団長室へ彼女を連行した。