Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第6章 答え
「……」
リヴァイはティーカップを手に、ソファの上でご機嫌なエミリを呆れた様子で見ていた。
ソファの弾力を楽しんでいるエミリは、更に子供っぽく見える。何がそんなに楽しいのかリヴァイにはさっぱり分からなかったが、紅茶の入ったカップを無言で差し出した。
「……えっと、頂いて宜しいのでしょうか?」
「他に何がある」
「で、ですよね! いただきます!」
怖い顔(リヴァイにとってはこれが普通)をしたリヴァイから、カップを受け取る。
温かい。
外で冷えた手を温めるのに丁度良い。
リヴァイはエミリの向かい側のソファへ腰掛け、彼流の独特な持ち方で紅茶を啜る。
「……」
「……」
静かな空間に、窓がガタガタと揺れる音だけが響き渡る。
エミリとリヴァイの間に会話は無い。おまけにここは兵士長の執務室。温かくて美味しい紅茶を飲んでいても落ち着かない。
(…………気まづい)
いつもフィデリオと言い合ったり、弟のエレンを説教したりとこれまで騒がしい日常を過ごしてきたせいか、この静かすぎる空間が苦手だ。
何か話題はないか頭の中で考える。そういえば初めて話した時もこんな感じじゃなかったっけ、と思ったが今はそんなことどうでもいい。
「……あ、あの、兵長」
「何だ」
何とか話題を見つけたエミリは、控えめにリヴァイへ声を掛ける。
リヴァイの視線は窓の外にあり、目の前のエミリをその瞳に映すことは無い。
「えっと……さっき、あの場所にいたということは、私の話……聞いてました?」
「まぁな」
「そ、そうですか……」
エミリはサッとリヴァイから視線を逸らし顔を俯かせる。
恥ずかしかった。
それはもう、めちゃくちゃ恥ずかしかった。
この様子だと声を上げて泣く姿も目撃されているであろうことは何となく予想がつく。
情けないところを見られ、エミリは今すぐ執務室から全力で逃げたくなった。
リノに語りかけていたことだって、あれは自分の"密かな決意"だったはずなのに、思い切りリヴァイに聞かれていたと思うとむず痒い。