Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第23章 親友
「……でも、私からは何も言わない」
エミリから声をかけてくれなければ意味がないから。そして、ペトラから何も言わないのは、ペトラなりの意地でもある。
「それがいいぜ。それに、あいつも一度は痛い目に合わねぇと、学習しないと思うしな! 頼んだぜ、ペトラ。あいつのこと」
後頭部に両手を回し、やれやれとフィデリオは肩を竦めるが、何だかんだ彼もエミリのことを大切に思っている。それは、瞳を見ればすぐに伝わった。
いつも喧嘩ばかりして、その度に周りを巻き込むどうしようもない幼馴染たちだが、二人の関係はいつだって強い信頼で結ばれている。
しかし、そんなフィデリオでもエミリは止められない。彼女の暴走をどう止めるか、今更そんなことに頭を使うなど、もう時間の無駄だと思って諦めている。
だから、敢えてフィデリオよりも付き合いが浅いペトラに任せるべきだと思ったのだ。
「うん、もちろん」
難しい顔をしているが、そこにはペトラのエミリに対する確かな友情が存在していた。
色々とまだ気持ちに整理がついていない部分もあるだろう。それでも、こんなにも今、ペトラが悩んでいるのは、それほどに彼女の中でエミリが大切だからだ。
「ありがとう。フィデリオ、オルオ」
二人にそう言い残し、ペトラは駆け足で薬草園を飛び出す。そんな彼女の足取りは、この三日間と比べてとても軽いものに見えた。
二人だけになった空間で、フィデリオは口角を上げながら、オルオの肩に手を置く。
「オルオ、お前にしてはなかなか良かったぜ」
「う、うるせぇよ!! 俺はだなあ、いつまでも重てえ空気ばっか背負われんのが嫌だっただけガッ……」
そこで相変わらず口から血を吹き出すオルオに、フィデリオは呆れた視線を送る。せっかく、噛まずに格好がついていたというのになんと残念な、といった顔だ。
オルオが下を噛まずに男らしさを発揮できるのは、いつのことやら。なかなかペトラに告白できずにいるどうしようもない親友に向けて、わざとらしく長い溜息を吐くフィデリオであった。