Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第6章 答え
『……う、うぅ……』
『あら、エミリ、どうしたの?』
大粒の涙を流し家へ帰って来たエミリに、カルラは洗い物をしていた手を止めてエミリへ駆け寄る。
『……フィデリオとケンカした……』
ギュッとスカートを掴み、顔を真っ赤にして泣き続けるエミリの目の淵に、カルラは手を添えそっと涙を拭う。
『そう、ちゃんと仲直りしなきゃ駄目だよ?』
『……うぐっ……だってぇ』
頬を膨らませるエミリの頭をポンポンと撫でて、カルラはエミリを椅子に座らせた。
『ほら、エミリ。まずは笑って』
『……わらう?』
『そうよ、エミリが笑っていないと母さんも悲しい』
『かなしいの……?』
ようやく涙を止めたエミリに、カルラは『うん』と頷く。そして、ギュッとエミリを抱き締め言った。
『母さんはね、エミリにずっと笑顔でいてほしいの。エミリの笑っている姿を見ていると、母さんも元気が出るから』
エミリとしっかり視線を合わせ、カルラは自分の思いを伝える。
まだ幼いエミリには、カルラの言葉の深い意味まではわからなかった。
けれど、『笑顔でいてほしい』というカルラの気持ちは理解できた。
『ねぇ、エミリ。笑顔は魔法なのよ』
『まほう?』
”魔法”。絵本やおとぎ話で登場する素敵な言葉に、エミリは涙を止めた。
魔法は子供にとっては夢のようなもの。
この頃は、絵本を読み聞かせてもらう度に、"ステキ"な世界に胸を踊らせていた。
そんな魔法の一つをわたしも使えるかもしれない。
まだ小さなエミリは、カルラの言葉を繰り返して話の続きを促す。
『そう。エミリやエレンが笑顔でいてくれると、母さんも父さんも嬉しい。笑顔はね、人を幸せにする魔法なのよ』
笑顔は魔法。
カルラがそう教えると、エミリはパァと花が咲いたような笑みを浮かべた。
『そう! その笑顔を忘れないで』
『うん!!』
さっきまで泣いていたことが嘘のように、エミリの心は晴れ、笑顔という名の幸せの花が咲く。
そんな娘に、カルラも嬉しそうに微笑んだ。