Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
エミリは、もう一度ルルを強く抱き締める。そして、
「ルル」
名前を呼べば、ルルはまた嬉しそうに笑った。
「えへへ……おなまえ〜」
ルル自身よりずっと年上の者から名前を呼ばれることも無く、寂しさと恐怖だけが募りに募っていたのだろう。その大きさが、嬉しそうな表情から読み取ることができた。
これからは、たくさん呼んであげよう。そして、たくさん抱き締めてあげよう。
(母さんが私にしてくれたように、今度は、私が……)
抱き締めた時のルルのあったかさを感じながら、心の中でそっと2つ目の約束を、密かに結ぶ。
「……おねえちゃん、おかあさんみたい」
「えっ」
「えへへ……エミリおねえちゃん、だーいすき!!」
ギュッと、今度はルルの方から抱きついて、エミリの胸に顔を埋める。
"おかあさんみたい"
その一言が、頭の中から離れず、ずっとエミリの心に響いている。嬉しいから、というそんな理由だけではない。きっと……────
「……わたしも、ルルのことだーいすきだよ」
憧れていたから。
なりたいと思っていたから。
カルラのような、母親になることを────
(……私は、兵士)
この先、自分に添い遂げる相手が見つかり、永遠を誓い合ったとしても、母親になることは、できないだろう。
兵士である上に、薬剤師も目指している。いまは、それでもう精一杯だ。正直、兵士と勉強を両立できている時点でも奇跡だと思っている。それほどに、余裕が無い。
だから、これ以上、他のものを抱えることなどできないのだ。例え、どれほど"なりたい"と望んでも。