Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
「泣いてるのに、うれしいの?」
「うん、そうだよ。涙は、ね……うれしいときにも、ながれるの」
かつて、自分にそれを教えてくれたのは、誰だったか。
『エミリ、次に泣くときは、嬉しいときに泣くんだよ?』
『なんで? うれしいのに泣くの?』
『涙はね、悲しいときだけに流れるものじゃないの。嬉しいときだって、涙は出てくるものなのよ』
そう、カルラ。
自分の愛する母親だ。
「私は、ルルが生きてくれていて、すごく、嬉しい。だから、泣いているの」
そうして、優しくルルに頬ずりをしては、たくさんの愛情を注ぐ。昔、母が自分にそうしてくれたように。
「あのね、お姉ちゃん」
「ん?」
「おかあさんがね、よくこうやって、ぎゅうううってしてくれたの!」
「そっかあ」
柔らかいほっぺを赤くさせて、クリっとした大きな目を輝かせて、嬉しそうに自分の母親のことを語るルルの姿は、自分がカルラに甘えていた子どもの頃のことを彷彿させる。
サラサラとなった髪を優しく撫でれば、気持ちよさそうに目を細め、笑顔を乗せていた。
「でもね、おかあさんがいなくなってからね、ぎゅうううってしてくれる人いなくて……」
陽の光が射さない地下街で、一人お腹を空かせてただ死を待つことしかできず、地上に出てもその環境は変わらず、悪い大人に良い様に利用されていた。そこにルルや子どもたちを抱きしめてくれる者など、居ないのは当然のこと。
それでも、わかっていても、悲しそうな顔を見せるルルを目にすれば、やっぱり彼らに対する怒りは収まらない。