Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
「エミリお姉ちゃん!!」
ルルの元気な声、それはエミリの心を貫いて、ジン……と優しい衝撃を与える。明るい笑顔は、何故か視界がぼやけていて、はっきりと見えない。
(なんで、かな……)
そんな疑問と共に一つ瞬きをした瞬間、スッと頬に伝う何か。それが涙だと気づいたときには、勝手に足が動いていた。
「……おね、ちゃん?」
突然、エミリに抱き着かれたルルは、少し苦しげに顔を顰め、エミリの顔をのぞき見る。
ルルの目に映ったのは、言葉が紡げないほどに嗚咽を漏らし、ただ涙を流すエミリ。頬を伝った涙がルルの頭を濡らしていく。
「お姉ちゃん、なんで泣いてるの? かなしいの?」
エミリが涙を流す理由。幼いルルには、まだそれがわからない。止まらないエミリの涙を止めようと、ルルは必死にエミリの頬へ手を伸ばす。それがさらに、エミリの涙腺を刺激した。
「おねえちゃん、泣かないで……! ルル、いい子にしてるから」
涙は悲しいときに流すもの。辛いから、苦しいから、涙を流す。
嬉しいとき、幸せなときも流れるということを知らないルルは、エミリを傷つけてしまったのではないかと勘違いをして、一生懸命、エミリの頬に伝う雫を小さなちいさな手で拭おうとしていた。
「…………ちが、う……」
「……え」
「ちがうの……これは、ね……うれし、から…………だから、泣いてる、の……」
傍から見れば、まるでエミリの方が幼子のようで、けれど、途切れ途切れに言葉を紡ぐその姿は、年相応のもののように見える。
ルルを抱き締める腕に力を入れ、額と額とをくっつけては、微笑んだ。
「ルル、が……ぶじで、よかったぁ……」
それが、いまのエミリの最大級の心の声だった。
元気で愛らしいルルの姿に、肩の力が一瞬で抜け、安堵し、その気持ちを伝えたくて、でも言葉が見つからなかった。しかし気持ちは抑えられず、最後は涙となって溢れ出たのだ。
──無事で良かった、と。