Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第1章 その日
「母さん!!」
エミリは駆け出した。
「おい、エミリ! 行くな!!」
そんなハンネスの静止も耳に入らなかった。
大切な人を失うかもしれない。その恐怖がエミリの心を支配した。
「母さん!!」
「……エミリ?」
愛娘の声に、カルラは驚いた表情で家の方へ走って来るエミリを目に映す。
「エミリ、来ては駄目よ!! 逃げなさい!!」
「イヤだよ!! だって、だって……」
……後ろには巨人がいる!
巨人は両手を使って瓦礫を退ける。巨人よりも遥かに小さな人間では、持ち上げることの出来ないものを嘲笑うかのように、一人で簡単に持ち上げてしまう。そして──
「!?」
巨人はカルラを掴み上げた。
「やめろぉぉおおお」
後ろからエレンの叫び声が聞こえる。
「イヤだ……イヤだ! イヤだ!!」
エミリはさっきよりも足を速く動かした。
立体機動装置も無いのにどうやって戦うのか。そんなこと、もう頭には無かった。
ただただカルラの方へ必死に手を伸ばす。
「やめて……母さんを、放してよぉ!!」
その願いも虚しく響いただけだった。
パキッ パキッ
大きく口を開けた巨人は、血飛沫を上げた。その鮮血は巨人のものではない。そいつに食われたカルラのものだった。