Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第1章 その日
「とにかく逃げるぞ!」
突然襲いかかってきた巨人の脅威。このままその場に突っ立っていては死ぬ。
フィデリオは、そのままエミリの腕を引っ張ってローゼの方へ避難しようと足を動かす。
「イヤッ!!」
しかし、エミリはフィデリオの手を振り払った。
彼女の行動にフィデリオは、焦りと苛立ちを含んだ表情で声を上げる。
「ふざけんなよ! こんな状況で何言ってんだ!!」
「エレンは? ミカサや母さんは!? 放っておけるわけないじゃない!!」
そう言い放ち、エミリは逃げ惑う人々に逆らうように、自分の家へと走り出した。
フィデリオは頭を抱えて後を追おうとするも、人の波に押されてそれが出来ない。仕方なく彼も自分の家を目指すことにした。
「はあっ、はあっ、エレ、ン……! み、んな!!」
ずっと止まらずに走り続けている。息が苦しくて仕方が無かった。
けれど、足が止まらない。一刻も早く、大切な人達がいる、大切な場所へ駆けつけたかった。
(大丈夫、きっと無事でいる!)
そう自分に言い聞かせ足を動かし続けた。
走り続けること数分。
「エミリ!」
「姉、さん……!!」
「!」
幼い頃から何かと世話になっていたハンネスが、養妹のミカサと弟のエレンを抱えて走っていた。おそらく、巨人から逃げているのだろう。
「放せ!! 放せよ!!」
「エレン? あれは……!!?」
エレンが叫ぶ方へ視線を移す。
そこにはぐちゃぐちゃに潰された自分の家。そして、その下敷きになっているのは、母親であるカルラ。
その後ろには……巨人が立っていた。