Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
額と後頭部から与えられる鋭い痛み。
今にも折れそうな鼻。目も潰されるのではないかと思えるほどの圧力を感じる。
右頬、左頬、唇、顎、鼻、額、目……
全ての箇所に痛みを与えることを、オドは忘れない。目障りな存在を黙らせることができるなら、それが一番都合が良いからだ。
「ハハハッ! その調子でずっと痛みに悶え続ければいい!!」
エミリの顔に何度も振り下ろされるオドの足。
その度に濁った声が流れ出る。
打ち付けられる音は、耳を塞ぎたくなるほどに痛々しい。
オドの残虐なその行為は、人間性など全く感じられないほどに惨いものだった。
それを、ただ近くで見ていることしかできないリヴァイ。血管がブチ切れそうなほど、彼の怒りは容量を大幅に超えていた。
「…………おい、てめぇ……」
薬で言うことの聞かない体へ、必死に命令を繰り返す。
(……動け)
エミリの悲鳴とオドに痛みつけられる音を耳に入れながら、怒りという感情に任せて起き上がろうと試みる。
(動けっつってんだろう!!)
目の前で想い人が、あんなにも惨い仕打ちを受けているというのに、何故這いつくばることしかできないのか。
(……クソッ!)
憎しみ、悔しさ、呆れ、もどかしさ……様々な負の感情が、リヴァイを追い込み最悪な方向へ引きずろうとしていた。
リヴァイがもがいている間に、エミリの声は少しずつ小さくなっていく。
「──っ、……────…………、」
そして、体も喉も力尽きたのか、エミリは、とうとう声を上げることも暴れることもできなくなった。
仰向けのまま、ぐったりと腕を伸ばして寝転がっているだけの状態である。
それでもオドは、エミリへの攻撃を止めない。
「……てめぇ、いい加減にしやがれ!!」
瞳孔を開き、とてつもなく恐ろしい剣幕でオドを睨みつけるリヴァイだが、そんな人類最強の怒りに触れてもオドは笑みを絶やさない。
「女性のこんな声、滅多に聞けませんよ? 貴重だと思いません?」
「っ…………ふざけんじゃねぇ。てめぇは、俺が必ず殺す」
体の全てのパーツを分解し、骨は粉々になるまで砕き、そして最後は、巨人の餌にでもしてやればいい。
リヴァイは強く奥歯を噛んで、オドへの憎しみを増幅させていた。